経理お役立ちブログ
2025/10/5
経理担当者・ベンチャー経営者のための内部統制入門ガイド|基礎知識から実務チェックリストまで
「内部統制」と聞くと、上場企業が行う複雑な監査対応をイメージするかもしれません。しかし、その本質は非常にシンプルです。それは、「属人的な運用を排し、誰が担当してもミスや不正が起きない仕組みを作ること」。
特に、1つのミスが会社の命取りになりかねないベンチャー企業や、これから実務を担う新人経理にとって、内部統制は「自分たちを守るための盾」となります。本記事では、その基礎から実践までを詳しく解説します。
1 なぜ経理に「内部統制」が必要なのか?
内部統制の目的は、単なるルール遵守ではありません。大きく分けると、次の3つのリスクをコントロールするためのものです。
正しい財務報告を行う
決算の数字が間違っていると、経営の判断を誤るだけでは済みません。銀行からの融資が止まったり、税務調査で「重加算税」が課せられたりといった、会社の存続に関わる事態につながります。
会社の資産を守る
会社のお金や在庫、備品が「気づいたらなくなっていた」という事態を防ぎます。私的流用や紛失は、管理の仕組みがないと発覚が遅れ、被害が拡大します。
会社の信頼を守る
「あの会社は管理がしっかりしている」という評価は、取引先からの信頼や採用活動における会社のブランドになります。目に見えにくいものの、長期的に大きな資産です。
2 内部統制を支える「3つの具体的なルール」
難しく考える必要はありません。実務で押さえるべきポイントはこの3つです。
① 職務分掌 ― 役割と責任をしっかり分ける
「1人の担当者にすべての工程を任せない」ことが大原則です。
なぜかというと、お金の流れをすべて1人がコントロールできる状態では、架空の請求書を作って自分の口座に振り込むような不正が「技術的に可能」になってしまうからです。たとえ信頼できる人であっても、仕組みとして防ぐことが大切です。
具体的な分け方の例
・振込データを作る人と「承認・実行する人」を別にする
・請求書を発行する人と「入金確認・消込をする人」を別にする
・振込先口座を登録する人と「内容を確認する人」を別にする
② 証憑(エビデンス)の紐付け ― 「お金の動き」には必ず根拠を
「お金が動いた後には、必ず理由(証拠)がある」という状態を作ることです。
領収書が手元にあるだけでは不十分です。それが「事前に承認された支出かどうか」まで確認できる状態が理想です。
運用のポイント
・電子帳簿保存法に対応したシステムを使って、仕訳データと領収書を1対1で紐付ける
・「なぜこの支払いがあったのか」を後から誰でも説明できるようにしておく
税務調査や監査の際に即座に説明できると、調査時間が大幅に短縮されます。経営者にとっては大きなメリットです。
③ アクセス制御 ― 「誰でも触れる」状態を作らない
「誰でも見られる、誰でも変えられる」状態は非常に危険です。物理的な管理と、デジタルな管理の両方が必要です。
具体的な対策
・通帳・実印・手形帳は鍵付きキャビネットに保管し、鍵の管理者を決める
・会計ソフトのIDは1人1つ。共有IDを使うと「誰が操作したか」がわからなくなる
個別IDを使うことで、「誰が・いつ・どの数字を変えたか」のログが残ります。これだけで、不正の抑止力になります。
3 ベンチャー企業が陥りがちな「4つの罠」
スピードを大切にするベンチャー企業ほど、管理体制が後回しになりがちです。ここでは特に注意したい4つのパターンを紹介します。
罠① 「信頼しているから大丈夫」という思い込み
小さなチームでは「あの人が横領なんてするはずがない」という感情が優先されがちです。しかし、不正は「信頼できる人かどうか」に関係なく起きます。
不正心理学では「動機・機会・正当化」の3つが揃ったとき、人は不正を犯すとされています(不正のトライアングル)。仕組みがなければ、誰でもその状況に置かれ得ます。
【考え方を変えるヒント】 「人を疑うためのルール」ではなく、「誠実な社員が濡れ衣を着せられないようにするための仕組み」と捉え直しましょう。
罠② 社長が承認しているだけで「安心」してしまう
何でも社長が決裁する仕組みは、一見すると厳格に見えます。でも実態は危険です。
多忙な社長が移動中や会議の合間に、内容を確認せず「とりあえず承認ボタンを押す」状態(いわゆる「メクラ判」)になっていませんか? 担当者が「どうせ社長は見ていない」と学習した瞬間、チェック機能は消えます。
【解決策】 金額や種類に応じて承認権限を現場マネージャーに委譲し、責任を持って一次チェックする体制に変えましょう。
罠③ 創業期のやり方のまま会社だけが大きくなる
「とりあえずスプレッドシートで管理」「領収書はあとでまとめて回収」。最初は仕方ないやり方でも、それが何年も続いてしまうケースがあります。
担当者が退職した瞬間に「なぜこの支払いが発生したのか」「この数字の根拠はどこか」がわからなくなる、ということが実際に起きています。
【解決策】 業務を「その人」に任せるのではなく「そのポスト(役職)」に紐付けましょう。誰がその席に座っても同じ精度で仕事ができる「業務フローの標準化」が重要です。
(関連記事)急成長ベンチャーがぶつかる「経理の壁」の正体。売上拡大にバックオフィスが追いつくための処方箋
罠④ 「内部統制=ブレーキ」だと思っている
「管理を厳しくすると現場のスピードが落ちる」という経営者の声をよく聞きます。でもこれは逆です。
管理体制のない会社は、IPO(新規上場)やM&A、大型の資金調達を検討するとき「管理不能」と判断され、せっかくの成長機会を失います。内部統制は攻めのための守りです。
【考え方を変えるヒント】 「しっかりしたブレーキがあるからこそ、車はスピードを出せる」。内部統制はブレーキではなく、安全に速く走るための整備です。
実務の視点:まずはスモールステップから
最初から完璧な仕組みを作る必要はありません。まず「現預金の管理」や「高額な発注の承認」など、インパクトの大きい部分から取り組み、少しずつルールを育てていくのが現実的です。
4 実務チェックリスト ― 明日から見直すべき10項目
以下のチェックリストで、自社の現状を確認してみてください。「できていない」項目があっても、焦る必要はありません。優先度の高いものから1つずつ取り組みましょう。
① 職務分掌:役割分担は適切か
チェック 申請・承認・記帳・支払の4つの工程が、それぞれ別の担当者になっているか?
対 策 人数が少なくても「入力はAさん、振込実行はB社長」という最低限のダブルチェックを組み込む
② 承認フロー :承認は名ばかりになっていないか
チェック 金額に応じた承認権限(例:100万円以上は役員承認)が文書化されているか?
対 策 承認者が「何を確認すべきか」を明確にして、形骸化を防ぐ
③ 証憑管理:領収書・請求書の保管は徹底されているか
チェック 電子帳簿保存法に対応した保存ルールがあるか?証憑のない仕訳が計上されていないか?
対 策 「証憑なき仕訳は認めない」を原則にし、紙もデータも保存先を一元化する
④ 仕訳チェック:入力ミスを防ぐ仕組みがあるか
チェック 入力者と承認者が分かれているか?桁間違いや見慣れない勘定科目の使用に気づける体制か?
対 策 会計ソフトの承認機能を活用し、異常値にフラグを立てる仕組みを導入する
⑤ 残高照合:帳簿と実際の残高が合っているか
チェック 銀行の残高証明書(またはネットバンキング画面)と帳簿を毎月突合しているか?
対 策 差異が出たら放置せず、原因を必ず文書化するルールを作る
⑥ 支払プロセス:出金に不正防止の仕組みがあるか
チェック 振込データを作成する人と、実際に送信する人は別か?
対 策 振込先の口座変更があった際は、必ず電話などで本人確認を行うフローを必須にする
⑦ 取引先マスタ:新規登録のチェックはできているか
チェック 新しい取引先を登録する際、上長の承認を得ているか?
対 策 定期的にマスタを整理し、実体のない業者や重複登録がないかを確認する
⑧ 月次・年次決算:数字の根拠をチェックできるか
チェック 数字について、担当者以外の人間が客観的に説明できる状態か?
対 策 前月比・前年比で大きな変動があった箇所は、理由を必ず文書化する習慣をつける
⑨ IT権限管理 :システムへのアクセス権限は適切か
チェック 会計システムの権限が役割に応じて制限されているか?共有IDを使っていないか?
対 策 退職者・異動者のアカウントは即座に削除・停止する運用を徹底する
⑩ 例外処理 :イレギュラーな処理のルールがあるか
チェック 前払金・見越計上・修正仕訳などの例外的な処理に承認フローはあるか?
対 策 「今回だけ特別」を禁止し、例外処理こそ上位者の承認を必須にする
5 まとめ ― 内部統制は「会社の成長を支えるインフラ」
内部統制を整えることは、ブレーキをかけることではありません。
「高性能なブレーキがあるからこそ、車は安心してスピードを出せる」のと同じです。内部統制という足場があるからこそ、経営者は思い切ってアクセルを踏むことができます。
新人経理の方へ: まず「なぜこの作業が必要なのか」という背景を理解することが、仕事の精度と信頼を高める一番の近道です。
経営層の方へ: 今の組織規模ではなく、「3年後・5年後の規模」を見据えた権限設計を今のうちに行いましょう。今日の一手が、数年後の強い組織を作ります。
まずは、自社のダブルチェックが形骸化していないかを確認することから始めてみてください。小さな一歩が、会社を守る大きな盾になります。